だから私は魔法の絨毯に乗りたいだけ

きまぐれメモリアル/日常エッセイ/それでも私は元気です

結婚するかもと思ってた彼氏にお金盗られて破局した話

ある日突然魔法少女に任命されたことはある?

目覚めたら異世界に転生していたことは?

平々凡々、母親にいきなり勇者認定されて魔王退治を命じられたこともない私は、いわゆる「晴天の霹靂」とは無縁の人生であったと心から思う。

いわゆるドラマティックなこともドラスティックなことも何一つないが、特に不足もなく、毎日なんとなく働いて好きな友達となんとなく遊んでなんとなく生きる日々に終止符がうたれたのは、あの日だった。

 

遡るは去年の3月。

私には、大学4年生から4年間付き合っていた大好きな彼氏がいた。

彼は非常に優しく、私は彼と付き合っている4年間、自分で靴紐を結んだこともないし鞄を持ったこともない。

エレベーターの「開」ボタンを押したこともないし、お店の予約すらしたことがなかった。

いわゆる蝶よ花よ状態で、なんでも彼がやってくれたのだ。

今日寒いねと言えばホットドリンクが自動で調達されて、ぬぎちらかした下着すらいつの間にか手洗いされている、そんな至れり尽くせりな生活が親以外からもたらされる現実。

わたしはその現実に浸かりきって、彼にだんだんと依存していくとともに、彼の無償にも感じられる愛に大変感謝し、こんな素晴らしい人間は他にはない、彼はきっとかの有名なイエスキリストかブッダの生まれ変わりか…と大変崇拝していた。

もちろん私はこんな素晴らしい彼を手放す理由はなく、毎日のように彼を褒め称えて将来的にも一緒にいてほしい旨伝えあっていた。

 

だが、そんな晴天と思しき平和な毎日にも、急に雷鳴は轟く。

忘れもしない2021年の3月のこと。

その日は、いつも通り在宅で仕事をしたあと、近頃の毎月の生理痛の重さに耐えかねて、保険証と現金だけを片手に初めて婦人科へいくことにした。

ただでさえ緊張する病院という環境、さらにデリケートなイメージのある婦人科、また病院ではがん検診や内診もしていただき、はじめての感覚に少しの羞恥心と少しの痛みとかなりの緊張を抱えて帰宅した頃にはヘトヘトだった。

家に着いた途端、そこには顔面蒼白な彼氏がいた。

 

何を話しかけても反応がなく、仕事で怒られたわけでも、プライベートで不幸があったわけでもないという彼氏。

もしかして…

「私に関すること?」

答えはYes。だいたい想像ができた、おそらく女の事である。

「ということは、私と、第三者に関することだね?」

答えはNo。あれ?

「第三者って意味わかってる?XXくんと、私と、それ以外の人に関することってことよ?」

わかってる、とYes。あれ?女の線は消えたか…あとはなにが…?

じゃあ何?としつこく問い詰める私と、私が警察に通報するかもと怯える彼氏。

「黙ってても何も進まない、どんなことか知らないが一生隠し通せない重要なことは白状するしかないんだから今のうちに教えてほしい」と伝えると、おずおずと口を開きはじめた。

 

「まるかちゃん(私)、最近外出る時小さいサブ財布で外出て大きいメイン財布家に置いていくやろ?

そのメイン財布に入ってたキャッシュカードから、ここ数日で何回かお金抜いててん…

70万ぐらい…

あと俺XXX万借金あるねん…

ほんまごめん」

これこそが、私にとっての晴天の霹靂だった。

 

遡ること5年前。大学生の彼は、バイトもして比較的自由なお金も増えてきていた。

そんな彼は、友人に誘われとある趣味に興味を持つことになる。それは、競馬。

馬がレースをして誰が勝つのか、お金を賭けて楽しむものだ。

学生のころは、月に1〜2万ほど賭けて遊んでいたらしい。

そして社会人になり、入社した会社で競馬関連の仕事を受け持つことになる。

元々の趣味に、仕事の付き合いという面もあり、みるみるうちに競馬へ浸かっていった。

自分の自由になるお金では歯止めが効かず、ついに数百万の借金を抱えることになる。

そこで、目をつけられたのが私のキャッシュカードというわけだ。

飼い犬の誕生日という暗証番号がなぜばれたのかは知らないが、おおかた背後から確認などしたのだろう。

 

 

その後は、気が動転していたため自分では正常な判断ができないと考え、

家族ラインに端末を伝え、これからの行動について相談した。

とりあえず引き落とされた金額の把握すること、また返済の意思や返済予定を確認すること、全て終わったらもう家を出ていってもらうこと、を伝えられた。

 

借金にまみれている彼にはもちろん返済能力などなく、しかし実家にバレたら今度こそ縁を切られるという恐怖もあり、友達に借りるか、もしくは月1万ずつでも返すから待っててほしい、それでも無理ならもう死ぬしかないなどの脅しも受け、個人的にかなり疲弊したが、

結果なんとかご両親との会議を設定すると約束してもらい出ていってもらった。

仕事が忙しいという理由で両親への報告も3日引き延ばされるなど、散々であった。

 

会議の時に相手のお母様が欠席だったり、私のいる場所を開示しているのに電話一本で済まそうとするなど、

相手の対応についても、個人的な価値観ではやや不信感がある対応だったが、ご両親からお金は返ってきた。

 

金は帰ってきたが、わたしの借金男に費やした20代前半〜中旬にかけての大切な4年間は一生戻ってこない。

傷心の私に、母親がなぐさめに連れていってくれたドライブの道中の、「男の子は何歳でもやり直しきくけど女の子はそうもいかない、そこを理解してもらわな困るよね…」という言葉が忘れられない。

 

犯罪は、加害者が一番悪い、そんなことは誰だってわかっている。

だが、今回は、おそらく私にだって落ち度はあったと思う人もいるだろう。

彼が使っているカードがクレジットでなくデビットであるとわかっていれば、

彼の財布に入っている診察券が、ギャンブル依存症を扱っている病院のものであることがわかれば、

私が毎日口座残高をチェックしていれば、

馬券がオンラインで買えることがわかっていれば、あるいは。

私は、人生ってどうしてこうも平等なのだろうと思った。

私は、彼に聖人君子のような幻想を抱いていたのだ。

実際は、優しくて丁寧な尽くしてくれる彼氏、そんなものは彼のほんの一部で、神様は平等に、彼へ欠点だって地獄だって惜しまず用意してくれているのだ。

恐らく、誰かの長所短所天国地獄、それら全てを知ることは大変に難しいことなのだろう。

それは他人はもちろん、自分のことだって、まだまだ知らない一面があったりするのかもしれない。

 

だから、窃盗をした彼の、途方もなく優しい一面も否定される、というのは間違っていると信じたい。

あの優しさも、金への執着も、すべてが彼を形成する一部で、それら全てがきっと彼の財産になるはずである。

 

 

私は、そんな壮絶な別れの翌日から、マッチングアプリをインストールし、何年も連絡を取ってない人にだれか男を紹介しろとラインした自分のバイタリティに誇りを持っている。

全くモテなかったマッチングアプリだが、なんとかやっと彼氏ができた。

 

彼氏ができても、いまはだれも靴紐を結んでくれないし、鞄だって自分で持っている。

寒くなったなと思ったら自分で自販機に行って温かい飲み物を買うし、掃除も洗濯も自分でして生きている。

いまの彼氏は、

水族館にいけば一生魚の豆知識を喋っている、

可愛いパフェとの自撮りを送っても今日も可愛いねの一言もなくパフェの素材に興味を示す、

なかなかマイペースだけれど、

でもクレジットカードは持っている。

今までわがまま放題だった私には少し慣れないところもまだある。けれどもそれでいい。

あなたも私も、知っていることはほんの一部だから。