だから私は魔法の絨毯に乗りたいだけ

きまぐれメモリアル/日常エッセイ/それでも私は元気です

大人って完璧じゃないんだなあと気づく話

物心ついた時からずっと、大人の世界は完璧だと思っていた。

 

私には感情があって、時に爆発してしまうこともあるけれど、大人は成長しきった後だから、そんな感情の起伏を見せるスキもなくって。

ただ苛立ちも不満も制御されたストレスフリーな完璧な世界で、愚痴を零すこともなく誰かの悪口を言うこともなく、もちろん失敗なんてすることなく、ただ平和的な完璧な環境で生きていると思っていた。

理由は簡単。私の母親に欠点が見当たらなかったからだ。

私が苦手なことを何でもできる。

掃除もごはんづくりもできるし、字だって綺麗。どんな探し物も一瞬で見つかるし、何か困ったことがあっても、相談さえすればなんだって解決してくれた。

車も運転できるし、常識や知識だってある。まさしく完璧。

だから、大人はみんながみんなそうなのだと信じて生きてきた。友達のお母さんだって、みんな完璧だ。

 

まあよくよく考えると、それじゃあどうして事件が毎日起きるのかなあとか、たくさんの矛盾も孕んでいるのだけれど、私はそこまで思い至らず、私の住む日本の大人たちはひとつの瑕疵もない完璧な社会に住んでいる完璧な人たちだと信じていた。

勿論、子供である今の私は到底完璧な人間たり得ない。

だから失敗だってするし、些細なことで拗ねるしごねる。時には号泣しながら心を乱していることをアピールだってする。

ただ、その原因だってすべては私が所謂「子供」だから。そう思いながら、20歳近くまで生きてきた。

大学に入学し、わたしが大都会へと羽ばたくとき、自分が大学を卒業するころには、自分の思い描く「大人」に、つまりは「完璧な人間」に自動的になっているのだ、と考えるとどこかさびしく感じた。

 

そしていざ一人暮らしをすると、思いのほかダメダメな自分がいた。

インターネットの支払いは遅れに遅れ、部屋は掃除をしないから乱雑。

毎日昼にムクリと起き上っては手のひらぶん程のフルーツグラノーラを掻き込んで友人と遊びまわる。

心底いやなことに直面したら、一人部屋で少し泣いてから大好きな犬の画像を見て気を紛らわす。

うれしいことがあったら、一人の家でだって舞い上がって踊りだしてしまう。

到底「完璧」とはほど遠い自分がそこにいた。

けれども大丈夫。だって、私はまだ子供。成人したとはいえ、まだ「大人」じゃないんだもの。これから自然と、できないことができるようになっていくでしょう。

 

そう思っていた私であったが、大学一年生の夏、自分の価値観を変える衝撃と対面した。

忘れもしないそれは、一冊の参考書。

誰かの自費出版でもありえない、ちゃんと本屋さんで買った、キャッチーな表紙のついたカラフルな参考書。

有名な予備校が出した、いわゆる私の中で完璧だと信じていた「大人」が何人も携わったであろう本である。

 

その本の中に、「つまり~~~のだである。」との一文を見つけてしまったのだ。

 

これはどう見ても「誤植」である。きっと「だ」が不要であったのだ。

大人の世界の出した本なのに、どうして…。非常に大きな衝撃を受けたと同時に、自分が完璧であると感じていた大人の世界が崩壊した音を感じた。

何度考えても、意味が分からなかった。大人って、完璧なんじゃないの?私が一時間で適当に書いたレポートを提出するのとはわけが違う。というか、私でさえそんな誤字をしたことはない。

 

そのとき、あまりの衝撃に、何個かの仮説が頭に駆け巡った。

大人にも、劣等生がいる?

この会社の人たちが、たまたま目も当てられないようなポンコツだったの?

それとも…

 

あれ、もしかして完璧な大人って自動的になるもんじゃないんじゃ...?

 

そのことに気付いた瞬間、驚きと同時になんだか酷く落胆した自分がいた。

まだ何もできない私だけれど、自然と完璧な人間に育つわけがないのだ。

わたしがこのまま変わろうとしないと、一生この不完全なままで生きていかなければならないのだ…

ゴールである完璧はひどく遠いものに思えたし、改めて世の大人たちを尊敬した。

しっかり知識を増やさなければとも思ったし、しっかり生きていかなければとも思った。

バイタリティーはもちろんだし、自分の感情もある程度コントロールできるようにならなければ。

字だって一生綺麗にならない。人前でも恥ずかしくないくらい達筆になりたい…。

 

でも、どうやって?自然になるのではないとしたら、私が何か努力しなければならない…。

 

途方もない計画に、絶望と限界を感じていたけれど…

大人は完璧、というフィルターが外れると、なんだかいろいろなものが見えるようになった。

あのバイトのおばちゃんはなんだか怒りっぽくて感情的。

店長は字が絶望的に汚いし、悲しいくらい短絡的。そして愚痴っぽい。

テレビでは毎日人の悪口をいうコメンテーターがいるし、汚部屋特集もあるし、浮気しまくるお姉さんもたくさん出てる。

 

個性、といってしまえば聞こえはいいけれど…

あ、大人って完璧じゃないんだ。

 

よくよく考えたら当たり前だけれど、20年近く生きてきてはじめて気づいた話。

大人になること、怖くはなくなったけれど…

卒業間近にして、それでもやっぱり完璧を目指したくて試行錯誤しまくっている今日この頃です。