だから私は魔法の絨毯に乗りたいだけ

きまぐれメモリアル/日常エッセイ/それでも私は元気です

痩せたい怨霊

最近、コロナ禍で在宅勤務が主流になったこともあり、だいぶん肥えを感じている。

くびれのない腹が気になって服もイマイチ着こなせない。

この極寒の冬でさえピチピチの服を好む私は、全身鏡の前で焦燥感に包まれていた。

 

…そうだ、運動しなければ…

 

運動が苦手な私もついに、汗と怒号あふれる(怒号についてはジム初心者の単なる杞憂であった)恐るべきフィールド、「ジム」へと一歩を踏み出した。

 

 

そこはカッコつけの私らしく、ジムも一味違うカッコよさで選ぶことにした。

そんな私のキーワードは「ニューヨーカー」。

以前ヨーロッパ行きの機内で見た「I feel pretty」のレネー・ベネットが通っていたインストラクターの人に励まされながら自転車を漕ぐやつか、「バーレスク」のような妖艶で素敵なポールダンスか。

そんなことを考えて色々なジムを巡ったところ、「Jump One」という名前の、「暗闇でトランポリンを音楽に合わせてひたすら飛ぶやつ」にたどり着いた。

 

音楽に合わせ、インストラクターさんが飛ぶのをマネしながら暗闇で飛び跳ねたりダンスしたりする。

トランポリンなので地上より高く飛べて面白いし、クラブのようで楽しかったというのもあるが、

結局の決め手は体験レッスンの時に一番強い勧誘を受けたから、というのがあげられる。

それぞれそれなりだけど決め手に欠けるなあ、というときに強い勧誘を受けると、もう面倒だからコレでいいか、と流されてしまうのは自然なことだろう。

腹ペコのときに見知らぬ定食屋さんに行ったとき、「店長オススメ」を選んでしまうのと同じ原理である。

 

そんなわけで、私はJump oneに入会し、トランポリンをしている。

 

実際に入会してみると、思っていたよりも年配の女性もたくさんいるなあ…という感想だった。(もちろん、若い方もたくさんいらっしゃるが)

生徒の人たちはみんな、インストラクターの人やほかの受講者の人とやたらと親しげに会話をする人がいたり、人見知りの私は少し引いてしまうほどに社交的な場所であった。

 

また、服装もみなにそれぞれで、そのまま海にダイブできる水着のような露出の多い恰好をしている人も多く、非常に開放的な様子である。

(正直他人の服を気にしてみているような人はいないので心底どうでもいい。前回レッスンの時に隣の人がズボンをはていないように見えたことも、私の靴下が絶望的にダサいことも、そんなこと本当にどうだっていいのだ)

そして全員玄人のような雰囲気を醸し、その道20年といった貫録でキビキビと飛ぶ。

こちらが心配になるほど小柄なひとも、少しぽっちゃりしたひとも、一様にすさまじい跳躍力をもって一瞬一瞬を飛び跳ねている。

 

 

生徒たちが飛んでいるさまを後ろから見るのは、本当に圧巻である。

どんなに負荷のかかるレッスンも、生徒全員がインストラクターを血眼でみつめながら、一心不乱に飛んでいる。フラフラでも、決して立ちどまる者はいない。

それはまるで砂漠を必死で乗り越えんとするサバクトビバッタの大群のような、そんな浅ましくも強かで美しい、本能としての人間の生きざまを見られたような気持になる。

ああ、これほどまでに人間を野生に還すのはなんなのだろう。

 

そう傍観する私には、Jump oneへ通う人々がどのような目標・目的をもって通っているのか、そのすべてを知るすべはない。

だが、少なくとも私には、「痩せたい」という欲求に対する、怨念のような、恨みのような、生涯わたって追及すべき呪いのような、そんなほの暗いゆらめきを感じるのである。

 

私にも見える。ほの暗くどろどろと揺らめく、「痩身」への呪いが、「美」への怨念が。

「痩せたい」呪いを持った怨霊が、私を手ぐすねひいて待っている。

 

 

きっと私は知るだろう。近々月4回コースの契約を、行き放題無制限コースの契約に変更する私を。

きっと私は抗えない。インスタのストーリーで「トレーニングしんどい、体力ない、、、*1」という言葉と共に、割れた腹筋を見せながら自撮りをしたい、、という欲求に。

*1:+_+